説明 実験所のラットたち

ある日の君たちは可哀想な実験材料で、実験の影響を調べるために君たちの脳は取り出されることになっている。しかし次の日、陽光に目を瞬かせる君たちは、消毒液とも“恐怖”とも違う初めての匂いを嗅ぎながら、バラクラヴァを被った若者の手で芝生におろされる。

目出し帽が何かはわかる。君たちの脳にはエンサイクロペディアが植え付けられているからだ。最初に用いたのはイギリス軍で(それが何者かはともかく)、クリミア戦争(それが何かはともかく)のバラクラヴァの戦いが由来……。しっかりと意識を向ければもっと詳しく読み出すこともできるだろう、だが今はそんな時ではない。

君たちはもう自由だ。君たちはネズミがどのように生きるのかを知っている。ネズミ式の生活がどんな危険性を伴うのかを知っている。背後にそびえる明るいビルには、君たちにおぞましい事をした人間たちが大勢いる。眼前に広がる森には、百科事典的に識別できる、だけどどんな匂いかはまるで知らない危険が満ちている。周囲には同じような者たちがいる。共に育ち、共に死にかけ、共にもの凄く賢くなった他のネズミたちが。Rattus norvegicus、SD系ラット、その大半がリンダとミルキィと言う特別なペアの子孫であるネズミたちが。

蠢動の時だ。あるいは生存のために。あるいは復讐のために。