完結編(テクニック)
ここまでは海外ストーリーゲームの変遷のお話でした。
当初はもう少しこの話題で時間をとるつもりだったのですが、登壇していただいた方から「今となっては入手困難だったり、当時はパイオニアであっても今ではそうでもないゲームとかの歴史のお勉強よりも、ストーリーゲームを遊ぶ上で役に立つ話がしたい」という要望があり、それはそれで「ごもっとも」と思いましたので、直前になって構成を変えてテクニックの話を30分させていただきました。それは「Director Stance」と「Prompt/Fishing」です。
Director Stance
「監督の視点」でしょうか。演出意図を他のプレイヤーに開示する、という手法です。
例として挙げたのは、ある町で女性が危機に陥っていてPCたちはそこに向かわなくてはならない。その際に「回り道だが安全な道」と「最短ルートだが危険な道」の2つ提示したら、GMとしては危険な道を進んで欲しいのに、PCは急がば回れということで安全な道を選んだ、というものでした。
実際には状況によってやり方はいくつもあると思います。危険な道を進んでいるところからセッションを始めるのもありでしょうし、安全な道にあわせてシナリオを変更するのもありでしょう。そして方法の1つとして、「安全な道だと、間に合わない」と言ってPCに展開を把握してもらうのが、この監督の視点にあたります。
他にはサイバーパンク物でよく聞きますが、依頼者にPCたちの疑いが集中した時、本当にその依頼者が潔白であるなら「マスターとして言うけど、この依頼者は裏切らないよ」と言ってしまえば良いわけです(無論、嘘は論外ですが)。PCの時なら、ロールプレイをする時に目的を話すということです。「お前たちにはついていかないぞ! と言ってパーティから離脱して別行動をとっていいかな? その後で合流するつもりなんだけど」とか、「ロールプレイ上抵抗するんだけど、なんかいい方法で言いくるめてもらえないかな」という風に、です。
マスターやプレイヤーの内心当てゲームを防ぐというのもありますし、キャラクターに入り込んだ演技をやりつつも、そこから一歩引いて監督の視線に立って全体を俯瞰した演出(*1)も可能にしよう、という考え方です。
Prompt/Fishing
「促し/釣り」というとイメージが悪くなりそうですね。これはプレイヤーからアイデアを引き出す手法で、展開が定まっていない状態でのマスタリングや、シナリオが存在しないタイプのRPGをする際に、PCに問いかけてその答えから展開を作っていくとものです。
例として挙げられたのは、「君たちの行く道の脇に墓場が見える。墓石が1つ目に入ってそこには君たちが知っている人物の名前が書かれているけど、それは誰だろう?」というものでした。即興で答えられたのが「司会者のキャラクターの弟の名前が書かれているよ」でした。その瞬間、作りもしていないのですが私のキャラクターの弟は死んでしまい、更にはその後の質疑応答で、殺したのはパーティーの仲間である先ほどの発言者のキャラクターで、私のキャラクターは弟を殺した犯人を追っていることになりました。
こういう風に他のプレイヤーが持っている引き出しを適切に開け、それを展開させていくという考え方です。
このテクニックをシステムに落とし込んで、ルール化しているゲームもあります。その1つが「海外ストーリーゲームの変遷:後編」でも話している『Apocalypse World』であり、そのエンジン『Powered by the Apocalypse(PbtA)』を使ったフォロワーたちです。色々な行動を起こした際の相手への質問がルール内で数多く用意されているのです。
近々ハロウ・ヒルから発売予定でいる『The King is Dead』(*2)では、例えばプレイヤー・キャラクターを選んでダンスができます。その場合、「私の何かが貴方の目を引き、釘付けにする。何がそうさせたのだろう?」などという質問が12個用意されていて、そういった問いかけを投げ合いつつ物語を育んでいくようになっています。
また来年あたりハロウ・ヒルから発売予定でいる『ダンジョン・ワールド』(*3)では、例えばバードは親しみやすく、簡単に相手の懐に踏み込んで腹を割った会話ができます。「誰に仕えているのか」や「今、本当はどんな気持ち?」などあって、相手はそれに正直に答えなくてはなりません。そこに相手の設定が深まる可能性が秘められています。
まとめ
内容を聞いてしまえば、「なぁんだ」とすでにご存じであったり、実践しているものかも知れません。ただテクニックとして文字に起こしておく価値はあるかと思ったので、こちらに記させていただきました。
特に「Director Stance」などは、(特に昔のホビーデータの)PBMを遊ぶ上で重要な「動機・目的・手段を明示したアクションを書く」と被っていて、実のところPBMのマスターをしていた身としては、なぜこれをもっと自分から文字にして置かなかったのだろうと悔やんでいましたが、ようやく(1年遅れで)書き起こすことができました。
2021年もまた何か企画を立ち上げたいものです。
注釈
- キャラクターに入り込んだ演技をやりつつも、そこから一歩引いて監督の視線に立って全体を俯瞰した演出:本当に古い例えになりますが、『特攻野郎Aチーム』の主要登場人物である力自慢のコングは飛行機に乗るのが大嫌いなので、移動に飛行機を使う際には演技としては当然抵抗します。ただ、誰かに気絶させてもらえるよう、プレイヤーとして頼めばいいわけです。
- 近々ハロウ・ヒルから発売予定でいる『The King is Dead』:宣伝です。
- また来年あたりハロウ・ヒルから発売予定でいる『ダンジョン・ワールド』:宣伝です。