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後編(2009~2014年、2015年~)

2009年、『フィアスコ』(*1)や『レディ・ブラックバード』(*2)が発表されます。『フィアスコ』は全員がGMで、『レディ・ブラックバード』は専任GMがいますが、どちらも準備不要なのがうりの1つであるRPGです。

Vincent Baker『Apocalypse World』(Lumpley Games, 2010)

そして2010年、これまでのインディーズ・ゲーム、ストーリー・ゲームの流れを大きく塗り替える作品が世にでます。それがVincent Bakerの『Apocalypse World』(*3)です。これは単一のテーマをもったゲームではありませんし、GMもいて、キャラクター・クラスに相当する存在もあり、能力値もある、そういう意味ではよく見かけうるシステムに近しいゲームと感じるのではないでしょうか。

ジャンルとしてはポスト・アポアリプス物で、それがどの程度かと言うと『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』が2015年に公開されるや、2016年には初版が売り切れていたことと相まって2版がリリースされる程です。ただ、このゲームには特定の背景世界はありません。世界設定やキャラクター、キャラクターたちの関係は、セッションを通じて育まれていきます。このゲームはそこに力を入れていて、つまりは繰り返しセッションを行うことが前提とされています。

その一つが判定です。このゲームではGMとの対抗判定と言うものは存在しません。そもそもGMは一切ダイスを振る必要がないのです。行動判定は、すべてプレイヤーだけがダイスを振って決定します。ただその判定にも修正を与えることができます。それが他のPCからの支援や妨害で、これはPC間の関係が、良きにつけ悪きにつけ深ければ深い方が大きな修正を与えられます。これによってプレイヤーは、互いの関係性を深くするよう指向される訳です。

次にGMの役割があります。前述の通り、このゲームではGMは判定を行いません。ではGMは何をするのかと言うと、GMには3つの「やるべきこと」、4つの「常に問うべきこと」、11個の「運用指針」、15個の「行動」が明示されています。これによって、GMは世界をより現実のように演出し、PCに影響を与えてその反応を引き出し、何が起きたかを演出します。初めに「よく見かけうるシステムに近しいゲームと感じられる」と書きましたが、この点で大きく違いが出ます。GMが流れを用意しシナリオを主導するのではなく、プレイヤーが主導で物語は広げられ、結果、GMにも予想不可能な展開へとつなぎ、キャラクターたちの周囲を掘り下げていくことに焦点を置いています。GMが結末へと、用意した正解へと導くのではなく、「プレイを通して一体何が起きるのかを見届けよう」というのが、GMが「やるべきこと」なのです。

そうしたこともあって、このゲームではGMの事前準備の負担が低くなります。シナリオの結末も、NPCの能力値なども不要だからです。GMが求める答えなどは捨て置いて、用意された状況に置かれたキャラクターたちについてプレイヤーたちに会話させ、展開を広げ、その上で最終的に彼らがたどり着く地点こそがゴールとなります。

Powered by the Apocalypse(PbtA)

こうした柔軟性やシステムの単純さ、事前準備の負担の低さの他に、この『Apocalypse World』の大きな特徴として、作者が再利用や改変を推薦している点があげられます。これらが功を奏し、多くのフォロワー作品が生まれました。それらには『Apocalypse World』の影響を受けていることを公表している作品もありますし、していない作品もあります。そうした『Apocalypse World』のハックであることを公表している派生作品には「Powered by the Apocalypse」(PbtA)のロゴが明示されているはずです。その中でも『Apocalypse World』のファンタジー版ともいえる作品が『Dungeon World』(*4)です。

BriefHistory_of_the_StoryGame.jpg

上の写真は、話のネタにとTRPGフェスティバルに持ち込んだRPG18作品(+α)ですが、この内『Apocalypse World』以前のゲームは8つ、当作品含めて以降のゲームが10あります。持ち込んだ我々にクセがあることは否定できませんが、この10作品のうち、PbtAないし影響を受けている作品は7つもあります。今でもKickstarter(*5)などで見かけるインディーズ・ゲームの多くにPbtAと書かれており、その影響力はいまだ衰えを知らないほどです。

近年の動き

そのKickstarterの誕生が2009年のもう1つの大きな変化と言えるでしょう。このお陰でインディーズ作家たちは資金調達を容易に行えるようになり、また必要部数を把握し在庫リスクからも解放されることになったのです。また近年では、これまで主にインディーPCゲームの開発者が作ったゲームを配布するためのウェブサイトであったitch.io(*6)に非電源のゲームも加わり始めています。

あわえてフィリピン産やマレーシア産のRPGなどを両ウェブサイトでも見かけるようになり、嬉しい悲鳴をあげつつも、様々なゲームの展開を追いかけ続けていくには難しくなってきたというのが、鮎方の正直な感想です。

ここで触れなかったゲームたち

  • Ben Robbins『Microscope』(Lame Mage Productions, 2011)
  • John Stavropoulos『X Card』(John Stavropoulos, 2013)

写真のゲーム(+α)たち

左上から

  • 上段
    • Grant Howitt, Chris Taylor『Spire: The City Must Fall RPG』(Rowan, Rook and Decard, 2018)
    • Kathryn Hymes, Hakan Seyalıoğlu『Dialect』(Thorny Games, 2018)
    • Josh Jordan『Heroin』(Ginger Goat, 2013)
    • Matt Wilson『Primetime Adventures』(Dog Eared Designs, 2004, 2015)
    • Alex Roberts『For the Queen』(Evil Hat Productions, 2019)
    • Danielle Lewon『Kagematsu』(Cream Alien Games, 2010)
  • 中段
    • Brendan G. Conway『Zombie World』(Magpie Games, 2019)
    • Fria Ligan, Simon Stålenhag『Tales from the Loop』(Fria Ligan, 2017)
    • Vincent Baker『Dogs in the Vineyard』(Lumpley Games, 2004)
    • Vincent Baker, Meguey Baker『Apocalypse World 2nd』(Lumpley Games, 2010, 2016)
    • Studio AGATE『Shadows of Esteren』(Studio AGATE, 2012)
    • Vincent Baker『In a Wicked Age』(Lumpley Games, 2007)
    • 友野詳『バカバカRPGを語る』(新紀元社)
  • 下段
    • John Harper『Blades in the Dark』(Evil Hat Productions, 2017)
    • Vincent Baker, Meguey Baker『The King is Dead』(Lumpley Games, 2019)
    • Sage LaTorra, Adam Koebel『Dungeon World』(Sage Kobold Production, RNDM Games, 2012)
    • Robin Laws『Herowars』(Issaries Inc, 2000)
      • ロビン・ロウズ『ヒーローウォーズ』(アトリエサード, 2001)
    • Jake Richmond, Matt Schlotte『Panty Explosion』(Atarashi Games, 2006)
    • Jason Morningster『Grey Ranks』(Bully Pulpit Games, 2007)

注釈