中編(2004~2008年)
当然、変化はRPGだけのものではありません。アメリカのTVドラマの構成にも変化があったそうです。日本では連続テレビ小説(1961~)や大河ドラマ(1963~)などがあるので違和感を感じるかも知れませんが、それまでのTVドラマと言うのは完全に一話で完結するドラマが主流で、一話で完結するものの全体のストーリーは連続していくTVドラマというのはまれであったそうです。そうしたドラマ(*1)が増え始めたのです。他にもRPGに影響を及ぼしたドラマがあるようで、アンディの記憶に強く残っているのは『ファイヤーフライ 宇宙大戦争』(2002)だそうです。これに関しては、彼がRPGに役立つ海外TVドラマ集をまとめてくれるのを期待しています。
Matt Wilson『Primetime Adventures』(Dog Eared Designs, 2004)
ともあれForgeコミュニティで錬成され、また上記のようなTVドラマの変化の影響を受け、2004年にMatt Wilsonの手によって『Primetime Adventures』(*2)が発表されました。これはまさに連続物のTVドラマを再現するためのシステムで、そのための仕組みが導入されています。
まず今では珍しくありませんが、2004年の当時では画期的だったルールが2つあります。1つはセッションの構成で、このゲームではシーン制が取られています。各PCのシーンを1度ずつ行う「幕【Act】」を4回繰り返すと必ずセッションが終わるように設計されているのです。そして2つ目として、ファンレターの存在があります。よいロールプレイや演出をしたプレイヤーには他のプレイヤーはファンレター・ポイントを送ることができます。これがヒーローポイントとして機能し、登場人物たちを活躍させます。
そして最後の3つ目、もっとも特徴的なシステムが「出番回【Screen Presence】」です。このゲームは連続ドラマを再現するため、基本キャンペーンで遊ぶことが前提となっています。しかも最初に何話構成なのかも決めます。そして自分のキャラクターの作成時に、何話目が自分の出番回なのかを決めます。キャラクターはその回でスポットライトを当てられますし、判定も成功しやすくなります。
こうした仕組みが功を奏して、またTVドラマを再現する以上、背景世界が自由ということもあって、このゲームは一世を風靡しました。そして、このTVドラマという体さえとっていれば背景世界は自由なために、システムではなく世界観が再現できればそれでいいのであれば、『クトゥルフ神話RPG』であろうとも、『サイバーパンク2020』であろうとも、『ルーンクエスト』であろうとも何でも再現できるため、遂には「ナラティブ版GURPS」と呼ばれたりするほどでした。
Vincent Baker『Dogs in the Vineyard』(Lumpley Games, 2004)
他にも2004年には、ForgeのモデレーターであるVincent Bakerが『Dogs in the Vineyard』(*3)を発表しています。残念ながら作者の意向で現在ではpdfでも販売されていないゲームですが、このゲームも大きな基点の1つであるため、ここで触れておきます。
このゲームではPCはアメリカ大西部開拓時代をテーマにした世界を舞台に、神の番犬となり自らの信仰心のもと正義を下しながら町から町へと旅をすることになります。時に何が正しいのか何が間違っているのか、それもPCの信仰心に照らし合わせて自分たちで判断をしなければならず、こうしたテーマ故か、先の『My Life with Master』と合わせて、「ナラティブなゲームはみんな陰鬱なテーマを抱えているんじゃないのか?」と揶揄されたりもしました。
そのシステムの中で大きな象徴となるルールの1つが「町の作成【Town Creation】」です。読んで字のごとくで、PCたちが訪れる訪れる町の作成です。「事の発端となった傲慢さ」を決め、用意された設問を埋めていくごとにそれがどのように規模を大きくし、状況は悪化していったのかが定められ、最終的に起こりつつある事件がNPCの人間関係を中心に設定されます。そして実際のプレイでは、この町を訪れたPCたちは「調査でどの人間関係や個人を掘り下げ」「誰が罪を償い、誰が許される」べきなのかを決断していくことになります。こうしたシナリオ構造にすることで、フックを散らばらせプレイヤーが興味のあるパートを追究でき、それでいてすべては繋がっているのでPCの行動や調査がNPCのリアクションを引き出すことになります。これによって動的な状況を作り出し、予想外のドラマが産まれることになります。
そしてもう1つの大きな特徴が、行為判定です。このゲームでは判定にダイス・プール制を取り入れていて、プールはまずPCの能力値が基本となります。ここに今まで培ってきた人間関係や特性、アイテムを判定(そして演出)に持ち込めるのであればその分のダイスを足せます。さらに単なる口論から喧嘩へなど状況を悪化させることにより、プールをさらに増やすことができます。こうやってキャラクター性をアクションに組み込む訳です。こうして得られたダイス・プールから出目が得られると、そのダイスを消費しながら、まるで西部劇の悪漢たちがカードゲームをするかのように上乗せ【Raise】をしたり、見【See】に回ったりをしてダイスを消化しつつ演出を互いに繰り返し、アクション・シーンを作り上げいきます。これによってアクションの判定が単なる成否ではなく、その行為にどういったドラマがあったのかなどが作り上げられるのですが、それに比して1回の判定が重く時間がかかるという欠点も内包していました。
この行為判定のメカニズムの影響を受けているシステムの1つが2018年に邦訳された『MARVELヒロイックRPG』(*4)の基幹ルールである「Cortex Plus」で、同書の謝辞にはVincent Bakerの名前も見えます。この「Cortex Plus」は汎用ストーリーRPGである『Fate Core』(*5)の影響も受けていて、2010年に発表された『Smallville Roleplaying Game』(*6)で初めて導入されました。
そしてその2010年、この『Dogs in the Vineyard』のデザイナーであるVincent Bakerがあるゲームを出版し、非常に多くのフォロワーを集めました。次回はその作品から続けさせていただきます。
ここで触れなかったゲームたち
- John Wickが2004年に設立したThe Wicked Dead Brewing Companyから出版された諸ゲーム
- Jared A. Sorensen『The Farm』(Memento Mori Theatricks/The Wicked Dead Brewing Company, 2004)
- John Wick『Cat』(The Wicked Dead Brewing Company, 2004)
- John Wick『Enemy Gods』(The Wicked Dead Brewing Company, 2004)
- John Wick『Schauermärchen』(The Wicked Dead Brewing Company, 2005)
- Emily Care Boss『Breaking the Ice』(Black & Green Games, 2005)
- Timothy Kleinert『Mountain Witch』(Timfire Publishing, 2005)
- Joshua A.C. Newman『Shock: Social Science Fiction』(the glyphpress, 2006)
- ジェイソン・モーニングスター『Grey Ranks【青灰のスカウト】』(Bully Pulpit Games, 2007)
注釈
- そうしたドラマ:TVドラマのことは詳しく知りませんが、嚆矢となるのはやはり『ツイン・ピークス』(1990)なのでしょうか。
- 『Primetime Adventures』:Matt Wilson『Primetime Adventures』(Dog Eared Designs, 2004)
- 『Dogs in the Vineyard』:Vincent Baker『Dogs in the Vineyard』(Lumpley Games, 2004)
- 『MARVELヒロイックRPG』:カム・バンクス『MARVEL ヒロイックRPG』(KADOKAWA, 2018)/Cam Banks『Marvel Hiroic Roleplaying』(Margaret Weis Production, 2012)
- 『Fate Core』:Fred Hicks, Rob Donoghue『Fate Core』(Evil Hat Productions, 2003)
- 『Smallville Roleplaying Game』:カム・バンクス『Smallville Roleplaying Game』(Margaret Weis Production, 2010)