説明 世界はすでに変貌していた

出来の悪いデマゴーグだとマスコミに一蹴されていた「人類から変種が出現している」という事実が世界中に広まってから、世間は殺気立っている。銃なしに人間を簡単に殺せるミュータントが、自分の隣人かもしれない。その疑念に耐えられない者が次々と魔女狩りの列に加わっているのだ。

少なくないミュータントが、どういうわけだか生きた人間を喰い始めた。「自分たちは真っ当な人間の魂を持っている」と主張する複数のミュータント団体がカニバル(食人者)を狩り始めたが、成果ははかばかしくない。カニバルがどうしてそんな馬鹿げた真似をするのか、どれだけのミュータントがカニバルなのか、正確に把握できている者は誰もいない。

ナショナリズムの意義は人種や宗教から「ミュータントかそうでないか」にすり替わりつつある。ある時、ミュータント事件のゴタゴタに便乗して与党の座を得た日本の政党が、経済的に対立する小国に「敵性カニバル国家」というレッテルを張り、脅しのつもりで宣戦布告した。ミュータントを公然と迫害していたその国からの返答は、密かに保有していた汚い爆弾の一撃だった。